海景 20-042 冬の海

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静けさが海を支配していた。誰もいない。くる気配すらない。焚き火のあとが晩夏の痕跡として磯から続く小さな浜にあるばかりだった。外海を岩礁が隔てた内側はどこまでも澄み切った水が輝いていた。

いつからこんなに関東の磯はきれいになったのだろう。公害という言葉とヘドロやスモッグの禍々しさを子供のとき刷り込まれた私は、大人になってもどんなに美しい海水を見ても疑いの念を払拭できずにいた。そして思う、いま幼年時代を送る子供たちは漂うウイルスへの不安を刷り込まれるのか。

子供だった私はテレビが伝える映像と言葉で公害を知り、鉄道で田子ノ浦を通過するたび臭いで感覚と結びつけられ、劇場映画のゴジラ対ヘドラで具象的な像として固定された。新潟の海岸に座礁したタンカーの巨体と流出原油を見て、公害を救いようのないものと思う気持ちは決定的なものになった。

その後、この国に自然への回帰を過剰に訴える声や、反ワクチンや標準的な医療を否定するおかしな潮流が生じた背景に私と同世代のある種の感覚が作用しているのを感じる。もちろん同世代の心底に澱をなして沈んでいる公害への不安以外にも、こうした流れを生んでいるのは間違いない。ただ、やはり影響は大きいのではないかと思わざるを得ない。

呪いの言葉を投げつけるつもりはない。だが、戦争を経験した子供、公害を経験した子供、新型コロナ肺炎禍を経験した子供とそれぞれが直面したものがいずれ世界をかたちづくる原料になる。つまり、そういうことだ。

冬の海を前に、つまらないことを思った。もしかしたら、撮影が難しい状況が再び訪れるかもしれないとも考えた。つくづく自分が嫌になった。冬の海が光、ここには私しかいないというだけでよいではないかと。Silence reigned in the Sea. [城ヶ島 南岸]

海景 20-042 冬の海
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額装海景 20-042 冬の海

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    加藤(文)文宏 / Fumihiro Bun Kato 写真家・作家 / Photographer Author ・北海道北見市生まれ。 ・大学卒業時までに詩集「無題あるいはサラバ」、同「Cadenza」発表(共に絶版、在庫なし。「Cafebza」別装丁私家版のみあり)。 ・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画・取材、Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告、武田薬品工業広告、他。 ・長編小説「厨師流浪」で作家デビュー。小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・各メディアにおけるスチル撮影。 ・オリジナルプリントの製作、販売。 ・JSAHP正会員
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