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何年間も訪れることがなかった岩礁へ行ってみると、ふるびた灯台が撤去され、撤去されるとき重機が入ったかして自然が整理されたような風情になっていた。釣り人さえいない磯で月面をたった一人で歩いているような、もう二度とどこへも戻れないような気分になった。そこに錆びとも油とも見える赤い水が鏡のように朝の光を反射していた。
大波が打ち上げたドラム缶にはSINOPECと書かれたラベルが貼られ、船舶用ピストンエンジンのモーターオイル200Lが内容物とわかった。塗装が剥げ錆びだらけになるのにいったい何年間洋上を漂っていたのか。私が思うより、こうしたものは海の塩に弱いのか。いずれにしても事故で沈没した船のものでないなら投棄されたのだろう。
複雑で煩わしい凹凸をみせる岩と色のない曇天の間にある潮溜まりの赤い水に、私は人恋しさのようなもの、人の気配への安堵を覚えた。人がやった悪さの結果が赤い水なのは百も承知だし、これはゴミであり汚染にすぎない。しかし私は、赤い水に見惚れ立ち尽くした。
(城ヶ島 南岸)
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