海景 20-037 陸風

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暑い秋から一転して肌寒い日が続いたが、ふたたび11月とは思えない暖かさになった。未明に家を出る際、それでも寒いのではないかともう一枚厚手の上着を車に積んだ。しかし夜明け前でさえ、そんなものは必要なかった。

海辺はほとんどいつもどおりだったが、漁協の軽トラックの行き来が忙しく感じられた。いまから思えば、あれは九十九里に打ち上げられた大量のハマグリを海へ戻すなどするためだったのだろう。

九十九里と呼ばれる海岸線は長いが、ある一帯の地域の浜に大きなハマグリがごろごろと転がって、まさに浜の石みたいだった。みずみずしさのある、ふっくらした貝殻だった。

この日、夜がとっくに明けているのにいつまでも陸風が吹いていた。夜間に陸地が冷え、暖かい海へ向かって空気が流れ風が吹くのを陸風という。日中に陸上の空気が温まり上昇気流となったのち、冷やされて海から陸へ吹く風を海風という。昼になろうとしているのに陸風のままなのは、いつまでも相対的に海の気温が高いままだったのだ。

浜に高々と掲げられた吹き流しは、赤、黄、青の化学繊維の布だった。陸からの風に煽られ続けていた。

撮影からしばらくして九十九里にハマグリが打ち上げられた一件が報道された。報道では、ある日のできごとのように伝えられていたが規模は違えど異常な現象は数日続いた。できごとの直後に報道しなかったのは、漁業権を無視してハマグリ拾いをする人の到来が危惧されたからかもしれない。そして原因は謎だとされた。

たぶん海水温が高すぎたのだ。いつまでも陸風が吹き続けるくらい、海水温が高い状態が続きハマグリが移動したのではないか。私はこのように思う。

わからないことをこれ以上あれこれ言ったところでどうなるものでもない。ただ今年の天候は、ただ暑いだけの昨年までとは違った。木々の花が咲き、実がなり、落葉するサイクルが狂っていた。昨年のように台風の被害がなかったのだけは幸いだった。それでも落ち着かないものを感じる。

いろいろおかしな年だ。

海景 20-037 陸風
額装海景 20-037 陸風

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    加藤(文)文宏 / Fumihiro Bun Kato 写真家・作家 / Photographer Author ・北海道北見市生まれ。 ・大学卒業時までに詩集「無題あるいはサラバ」、同「Cadenza」発表(共に絶版、在庫なし。「Cafebza」別装丁私家版のみあり)。 ・スタジオ助手、写真家として活動の後、広告代理店に入社。 ・2000年代初頭の休止期間を除き写真家として活動。(本名名義のほかHiro.K名義他) ・広告代理店、広告制作会社勤務を経てフリー。 ・不二家CI、サントリークォータリー企画・取材、Life and Beuty SUNTORY MUSEUM OF ART 【サントリー美術館の軌跡と未来】、日野自動車東京モーターショー企業広告、武田薬品工業広告、他。 ・長編小説「厨師流浪」で作家デビュー。小説のほか、エッセイ等を執筆・発表。 ・獅子文六研究。 ・インタビュー & ポートレイト誌「月刊 IJ」を企画し英知出版より創刊。同誌の企画、編集、取材、執筆、エッセイに携わる。 ・各メディアにおけるスチル撮影。 ・オリジナルプリントの製作、販売。 ・JSAHP正会員
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