311への旅 千葉県飯岡 2カット

(311への旅 千葉県飯岡 19カット)から続く。

千葉県旭市飯岡に津波の爪痕がはっきり残るのは漁港近くの更地くらいのもので、こうしたところに旅をはじめるのが遅すぎたと思わされると同時に、人は生きるため過去を踏み台にして進まなければならず、痕跡が消えるくらいでなければならないとも感じさせられた。浜辺を見ても、何も知らなければ津波を連想させるものをない。自然にも刻一刻とあるべき姿に落ち着こうとする力学が働く。

もちろん、当事者である飯岡の方々は東日本大地震と津波を忘れられずにいる。まだ六年しか経過していないのだ。防災の側面からすれば、忘れるなであろうが、忘れてしまいたい記憶の断片ばかりのはずだ。ただ、大切な人を亡くされた方々にとっての記憶は、その人の思い出は2011年3月11日の出来事と密接に結びついたものゆえ単純ではない。小学生の子供たちが親になり、その次の世代が物心つく時代にならなければ飯岡の記憶は塗り変わらないだろう。こうした次の時代になってはじめて、慰霊碑の記述は記憶から歴史に変わる。慰霊碑は2013年に建立され、震災関係の資料とともに小中学生の作文を収めたカプセルが埋められている。

東日本大地震発生の日に何が起こり、その後どのように経過したか飯岡にまつわる記述は報道、個人の報告ともあまりに少ない。インターネットのSNSにおいてはほとんど発見できない現状だが、YouTubeにアップロードされている動画でありのまま津波被害の一旦を知ることができた。私が飯岡の地と、飯岡の津波被害を震災の日から半年間知らなかった言い訳ではないが、2011年3月11日から相当の期間の私の記憶はかなりあやふやで、自らが困惑したり奔走した記憶だけ突出し、あとわずかな事柄も時系列がめちゃくちゃになっている。これは私に限ったものでないだろう。皆、自分と身の回りに目を奪われていたのだ。このような私が今更のこのこ飯岡を訪ねる後ろめたさは、こうした態度に起因している。まして、よそ者なのだ。

撮影した全画像ファイルを点検し、現像作業に入ってもどのように画像化するか、画像化して私の写真とする意味は何か問い続けた。物見遊山ではないと何度も心中で口走り、承認欲求のため画像化するのでもないと自らを戒めたが、当事者の方々が同意してくれると限らないうえに、同意どころか馬鹿にするなと詰め寄られてもしかたないのだった。しかし、私は一人の日本人として、関東在住者として飯岡を訪ねなければならなかった。いま、このときの飯岡の姿を記憶に刻み、画像として心象をまとめなければならなかった。東日本大地震を巡る旅を、飯岡からはじめて後ろめたさの意味と、謝罪と祈りの意味をすこしでも明確にしなければならなかった。

原発事故に端を発するデマや悪意ある発言の被害を大きく受けなかった飯岡だが、東北のみならず関東一円についてひどいでまかせを毎日のようにSNSに書き連ねる者が未だに存在している。また震災直後の混乱期に扇情的な報道をし、その後も継続してデマに等しい記事を書き連ねた報道機関は訂正も謝罪もしていない。こうしたデマや悪意と無関係であるが、飯岡の展望台から四方を見回すと屏風ヶ浦の東に、銚子沖から鹿島方面の海上に、北側の高台に風力発電の風車が何機も並んでいるのが見え、震災後のエネルギー政策が風景を変えたのがわかる。東日本大地震とは東北に被害を与えたものとだけ思い込むことが誤りであるのが、こうして形となって示されている。東日本大地震は東北に限らず、私たちの心理と生活やインフラの在り方を変えた。良き転換点であったものもあるが、悪しき日常として継続しているものも多い。前述のデマ、悪意の日常化、あるいは顕在化は悪しき現象である。

飯岡の地に立ち、飯岡に暮らしている人の生活を見、飯岡の風景を撮影し、150km離れた場所で暮らす私は、飯岡で起こったことを被害を知った日以上に他人事とは思えなくなった。たまたま飯岡が被害を受けたに過ぎないのだ。たまたま飯岡以北の東北地方が甚大な被害を受けたに過ぎないのだ。この国に生きる者として、卑しい言葉を他人事のごとく口にできるはずがないのだ。いまだ呪詛のように悪意ある発言を続けたり、いつまでも誤りを訂正しない者どもの暮らしが、いったいどのようなものか私にはまったく想像できない。でも、これは間違いなく日本人の言動であり、日本人の一側面だ。世界中いたるところに似た話があるとしても、日本と日本人の現実なのである。いずれ東日本大地震は歴史となる。人間のひどい心のあり様も歴史とされる。私がしばらくの間、飯岡に対してまったく無関心だったことも汚れのひとつに集約され、歴史に残るだろう。

 

Fumihiro Kato.  © 2017 –

311への旅 千葉県飯岡

 

311への旅 飯岡

 

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